プレクシャ・メディテーションの基本的な瞑想法6種の第一段階はカーヤウッサグです。プレクシャ・メディテーションはカーヤウッサグに始まり、カーヤウッサグに終るというほど重要な瞑想テクニックです。カーヤはインドの言葉で肉体であり、ウッサグは離れ去ると云う意味です。何が肉体から離れ去るのか?意識が肉体から離れ去るのです。
意識が肉体から離れるとは何を意味しているのでしょうか?私の経験ではその時、五つの感覚器官の働きが完全に停止しています。そして思考も停止して、五感を超えた超感覚的知覚だけで自己を観じています。この様な状態は例えて言うなら、生きていて死んでいる状態だと云えるでしょう。また、深い瞑想状態とも云えるでしょう。
生きていて死んでいるような肉体の状態になった時、完全なる心身のリラックス状態が訪れます。カーヤウッサグの実習は日常のストレスを軽減する最も有効な手段です。この方法を応用したのが心理療法の自律訓練法であり、瞑想法の一つとしてヨガ・ニードラとして広まっています。完全なるリラクゼーション瞑想、それがカーヤウッサグです。
カーヤウッサグの歴史は非常に古く、3000年以上の昔まで遡ることができます。ジャイナ教の24代、最後のテールタンカラは2600年ほど前のマハーヴィーラであり、23代が2800年ほど前に歴史上実在の人物とされるパルシュヴァナータです。初代のテールタンカラはリシュバ・アディナータとされています。その息子であったゴーマテシュワーラ・バーフバリはカーヤウッサグを修行していたと伝説されています。
バンガルールとマイソールの中間に、南インド最大のジャイナ教の聖地シュラバァナ・ヴェルゴラがあります。ここは、緑豊かなマイソール高原に一か所だけ突き出た花崗岩の岩山になっています。岩山はヴィンデヤギリ1020mとチャンドラギリ930mの二つの峰に別れていて、間に聖なる四角い池があります。チャンドラギリは2000年以上前の有名なチャンドラ・グプタ王と聖者バドラバーフゆかりの修行聖地です。高い方の峰、ヴィンデヤギリの頂上は、巨大な花崗岩を彫刻した高さ18mのバーフバリの巨大なカーヤウッサグ立像が聳立しています。バーフバリは12か月間立ち続けたので、両足に蔦がからみ、足元には蟻塚が出来たと伝わっています。この巨大石像の完成は西暦981年です。
カーヤウッサグは行為を止めると云う意味もあると私は考えています。行動しない、生活しない、つまり生きていて死んだような状態となることです。バーフバリのカーヤウッサグは行為を止める瞑想だったのでしょう。カーヤウッサグは目的に応じて、立禅、坐禅、臥禅として行う事が出来ます。
カーヤウッサグを現代テクノロジー機器を使って行うのが、アイソレーション・タンクです。アイソレーション・タンクは自律訓練法と同様の効果をもたらすリラックス法として、1954年アメリカ人のジョン・リリーに依って考案され製品化されました。アイソレーション・タンクはフローテング・カプセルとも呼ばれます。底が100cm×200cmほどのカプセルボックスの中に、25cm程の高さに濃いマグネシュウム水溶液が入っています。その中に全裸になって入り、入り口を閉ざすと、外部と完全に遮断されます。カプセルの中は真っ暗で何も見えません。外部の音も全く聞こえません。
耳の中に水が入らないように耳栓をつけて水溶液に横たわると、塩分濃度が高いので体が木材のように水に浮かびます。水温はほぼ体温と同じぐらいに設定されているので、裸でも寒くも暑くもありません。水の中で体の動きを静止すると、皮膚の温点、冷点、圧点、痛点に何も刺激がありません。アイソレーション・タンクに横たわると脳は視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚が情報を受け取ることが出来なくなります。体が水面に浮いているので重力からも解放されています。四六時中活動している脳と脊髄に、感覚神経からの情報が何も来なくなるので、脳が戸惑って誤作動を起こすのです。
フローテング・タンクの中では、ヨガの屍のポーズになって、体を完全に静止させます。肉体を確認しようとして、手や足を動かさないようにします。少しでも動くと脳が反応してしまいます。じっと動かさないようにしていると、面白い内部感覚がいろいろ起こります。私の体験では、まず、自分のしている呼吸の音や心臓の鼓動がとても大きく感じられました。しばらくすると自分の手足から始まり身体が無限の彼方に広がり伸びていくような感覚が起こりました。宇宙と自己が一体になったような感覚でした。また、深い沈黙の世界に入っていくような感覚もありました。
アイソレーション・タンクでのリラクゼーションは他物の助けを借りるものですが、瞑想実践としてのカーヤウッサグは自分の身体と観じようとする意識だけを使って、出来るだけアイソレーションタンクのような環境、条件になるように工夫を凝らして自己暗示するのです。リラックス感が高まると睡魔がやってきますが、眠ないように注意して意識を明瞭にして行えば、それが瞑想になります。途中で寝てしまっても何の問題もありません。
カーヤウッサグはストレスを軽減し、身体機能を回復し、心身の健康に対して絶大の効果があります。日常的に実践して行ってください。45分ほどのカーヤウッサグが3時間の睡眠に匹敵する疲労回復効果があるとされます。
<著:坂本知忠>
(協会メールマガジン2025/11/30からの転載です)